「日本は長い間、技術の第一人者でした。しかし、デジタル変革にあたって、アジア太平洋および世界でその立ち位置を強固にするためにはさらなる努力が必要だと気が付きました。政府主導による未来投資戦略 2018 によって日本はその目標に向けて動き始め、ロボティクスにおける研究開発能力や製造業などの産業といった競争上の強みに資本を投下することによってイノベーションとビジネス創出を加速しています。政府のこのイニシアチブは、自動化およびリモートのリアルタイム サービス、スマート システム、ロボティクス、モビリティ、次世代の医療システム、インフラストラクチャの近代化など、成功のための主要な分野に力を入れています。 2020 年の東京五輪は、確実に、企業や政府にとってこれらの優先事項に対応するための機会であり頼みの綱となるでしょう。日本が 2020 年以降に向けてモビリティ、クラド、IoT、人工知能、自動化、セキュリティなどの分野で IT インフラストラクチャを近代化する上で、テクノロジー ジャーニーにおける長期的パートナーとしてシスコが支援します。シスコは、日本のデジタルの未来に貢献することに大きな力を注いでいます。」– Dave West
Dave West – シスコ ジャパン バイス プレジデント
長年にわたって技術分野で世界をリードしてきた日本は、今もなお多くの領域でその地位を維持しています。たとえばロボットの分野では、最大の製造国として世界の供給の半分以上を担っています。1 ただし、将来のデジタル化を支える社内インフラに関しては、日本のマネージャの多くが不安視しています。実に約 60 % は、現行インフラでは将来に対応できないと述べているからです。将来に関して同程度の懸念を示している国は他になく、インド、中国、ベトナム、インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピンの 7 ヵ国では、90 % 超が自信を持っています(図 1 を参照)。
図 1
こうした懸念は公的機関で最も深く、自身の部門でデジタル変革戦略を策定していると回答したマネージャのうち、その戦略が不十分であると考えている割合は 4 分の 3 を超えています。他のセクターも楽天的とは言い難く、製造業(61 %)、小売(60 %)、および金融サービス(55 %)はいずれも、準備不足であると考えていました。その一方で楽観的だったのは、医療機関のマネージャだけでした。
一般的に、日本は技術の面で衰退しつつあるという認識が持たれています。その理由の 1 つとして、日本が独自に設けている高い基準が挙げられます。場合によっては、それが機会の逸失につながるという非難もあるように思われます。The Financial Times は昨年2、密集して配置されている日本の自動販売機についての記事を発表しました。日本国内の 490 万台の自動販売機のうち、約半数で飲料が売られています。日本の事業者団体によると、これらをネットワークで接続すれば、あらゆる種類のデータを収集できるようになりますが、自動販売機の多くを製造する Fuji Electric 社は、インターネットに接続されているのはわずか 100 台にすぎないと述べています。これについて FT は、同社が「IoT はまだ、お客様と開発を進めている最中である」と述べたと伝えています。
シスコが日本の IT マネージャを対象に実施した調査では、これらの問題がどのように根付いているのかについて、いくつかのことが明らかになりました。日本の IT マネージャにとって、インフラストラクチャのアップグレードを阻む圧倒的に大きな要因は予算です。他の地域のマネージャが、複雑さや理解の欠如を挙げる傾向にあったのに対し、日本の IT エグゼクティブの 86 % は予算を理由に挙げています。こうした懸念は結果として、新技術に対してコスト削減を期待する割合(61 %)が、生産性向上を期待する割合(64 %)と拮抗する事態を生み出しています。これを中国と比較すると、生産性のスコアが最も高かったものの、イノベーションの促進とカスタマー エクスペリエンスの向上(69 %)を辛うじて上回る程度でした。一方の日本は、カスタマー エクスペリエンスの改善に無関心なようです。技術の導入によってカスタマー エクスペリエンスが改善されることに期待を寄せている日本の IT マネージャは、4 分の 1 未満でした。
1International Federation of Robotics、2018 年 2Internet of things tops Shinzo Abe’s list of priorities、2017 年 10 月 24 日
日本は長年ロボットの代名詞となってきました。20 年前に世界初のペット ロボット「AIBO」をソニーが発表してから、日本は今もなお世界最大のロボット生産国です。しかし日本の IT マネージャを全体的に見ると、自動化によって自社の未来が形作られる(またはそうなる可能性が高い)とは考えていないようです。未来を形作る技術として自動化を挙げた IT マネージャは日本が最も少なく、5G を除けば最下位(30 %)でした。これは中国や韓国のほぼ半数です(図 2 を参照)。
図 2
その理由の 1 つとして、日本の産業では長年自動化が中核的な役割を果たしており、製造業におけるロボットの使用率が韓国、シンガポール、ドイツに次いで世界で 4 番目に高いという点が挙げられます。ただし、他の業界では自動化が困難であることがわかっており、それは、自動化を選択した IT マネージャが 20 % 未満だった教育と小売で最も顕著でした。そして最も驚くべきことに、公的機関と医療機関に関しては、企業や組織で何らかの自動化を導入していると述べた回答者は 1 人もいませんでした。医療機関の回答者はその理由として、人材不足や、現在の IT インフラが抱える問題を挙げています。日本の高齢化と失業率の低さを考えると、日本ではまだ、工場の作業現場以外でも何らかの方法で自動化のメリットを活用できるのではないかと思われます。
いずれに問題についても、日本政府は 8 月に警告を出しています。茂木敏充経済財政政策担当大臣が内閣に提出した報告書は、日本が四半世紀で最悪の労働者不足に見舞われていること、およびその結果としていくつかの業界ですでに利益が減少している可能性があると警告しています。これについて共同通信社は、同大臣が「人材開発に資金を投入し、AI、IoT(Internet of Things)、ロボットといった、第 4 次産業革命の機能を実装することがきわめて重要である」と述べています3。
McKinsey 社のレポートには、今後の医療分野の展望が示されており、人口の 31 % が 60 歳以上になる人口統計(中国では 13 %、米国では 18 %)の厳しい見通しから、「リアルタイムで健康状態を監視するセンサー、地方の病院で手術を行うリモート制御のロボット、家事を行ったり、高齢者に食事や薬を与えたりするロボット」など、さまざまなものを接続する技術が必要になると見られています。 医療機関の IT マネージャは、おそらくこのようなビジョンが新しいものではなく、多くの企業や大学が長年、ロボット介護機器(「介護ロボット」)の実験を行ってきたものの、その市場の規模が小さいことをわかっています。昨年末の The Economist では、日本政府は 2020 年までに介護ロボットの市場が約 5 億ドルの規模になると予想しているものの、その多くが政府の補助金によって生産者と介護施設の顧客の両方に提供されるようになるだろうと述べられています。
3Japan economy needs AI, robots to offset aging population: white paper、2018 年 8 月 3 日(Mainichi Japan)
「中国の組織はデジタル変革の最前線で、ビッグデータと分析など、成功のための適切なテクノロジーに投資する準備をしています。ビッグデータはビジネスを促進するためだけではなく、世界でも最大規模である中国のデジタル エコノミーの境界線をさらに広げ、未来を推進するためにも重要な役割を果たしています。データと分析の力を活用して、ビジネスは成長し、中国経済の勢いを高めることができます。 同時に、データと分析によって大きく推進される経済では、規制の追い風とクラウド テクノロジーの価値提案に促進され、クラウドの導入も進むことが期待されます。シスコは、クラウド環境全体でシームレスにデータを管理および保護するツールを提供することで、組織がビジネスと顧客のインサイトに向けてデータを使用し、プライベートとパブリックを問わず適切にクラウドを導入することを支援できます。クラウドは確実に、中国の組織がデータをさらに活用してイノベーションとデジタル変革を達成する機会を拡大してくれます。」– Hera Siu
Hera Siu - シスコ中国バイス プレジデント兼 CEO
中国では長年ビッグデータが活用されており、(Tencent 社などの)ビッグデータ関連の大企業は、数百万人のユーザから収集した膨大なデータ セットを有しています。2018 年 4 月にアナリスト企業の IDC 社は、(日本を除く)アジア太平洋地域で中国がビッグデータおよびビジネス分析ソリューションの最大の市場となり、今年の支出予想額が 55 億ドルに達するとの報告を行いました。 ビッグデータの市場は、Alibaba、Tencent、Baidu といった大企業が独占していますが、このような企業が収集するデータは、分析の飛躍的な成長につながっています。専門食品チェーンの Zhouheiya 社は、Alibaba 社のデータ分析サービスにより、鴨の蒸し煮の需要が減る 4 月から 8 月に「ザリガニ」というキーワードが最も多く検索されていることを知り、鴨が中心だった商品のラインアップにザリガニを追加しました。 製造業、医療機関、および金融サービスのマネージャも、自社に変革をもたらす最も重要な技術としてビッグデータを挙げています。ビッグデータの活用を進めているのは民間企業だけではなく、公的機関でも同様です。公的機関では組織を形作る技術として IoT においてのみビッグデータを活用していますが、ビッグデータと分析が重要であると回答したマネージャの割合が 56 % に達した一方、クラウドと自動化はそれぞれ、わずか 3 分の 1 と 11 % という結果になりました(図 3 を参照)。
図 3
実際、2016 年に開始された中国のビッグデータ計画は、10 年間で業界の規模を 4 倍に拡大し、世界をリードするビッグデータ企業 10 社と最大 15 の実験区域を作り出すことを目標としています。コンサルタント会社の Gao Feng 社が行った調査によると、貴州省のパイロット区域には、すでに Foxconn、Microsoft、Tencent、Alibaba などの企業が誘致されています4。 中国における公的機関の目的は、ビジネスの支援だけにとどまりません。Tencent 社や Alibaba 社と連携して、企業から提供されたデータを基にした社会信用システムの構築も進められています。 ただし IDC 社は、ビッグデータと分析に対する支出が中国に次いで多い地域にオーストラリアを挙げています。また、今後 5 年間で支出が急増する可能性が高い東南アジアの国として、インドネシア(CAGR 19.7 %)、フィリピン(CAGR 19.0 %)、タイ(CAGR 18.2 %)を挙げています。5
このような支出は、シスコの調査結果にはあまり反映されていませんが、注目すべきポイントは、すべての国で半数を超える IT マネージャが、自社の未来を形作っている、または形作るであろう技術としてビッグデータを選択したことにあります。
4China’s Digital Landscape and Rising Disruptors: Module 2.9 Big Data、2017 年 12 月 5Big Data and Business Analytics Revenues in the Asia/Pacific (excluding Japan) Will Reach $14.7 Billion in 2018, Led by Banking and Telecommunication Investments: IDC、2018 年 4 月 11 日
オーストラリアの IT マネージャは大部分が楽天的です。シスコが調査を行った先進国の中で、デジタル変革に必要な技術を導入するための組織の準備が整っていると回答した割合が最も高いという結果になりました(オーストラリアが 89 % だったのに対し、シンガポールは 86 %、韓国は 81 %、日本は 46 % でした)が、懸念もあります。 オーストラリアの IT マネージャの 20 % 超は、過去 3 年間にインフラストラクチャをアップグレードしていないと述べており、この結果に近かったのは日本だけでした(図 4 を参照)。オーストラリアの金融セクターと公的機関は最も影響を受ける可能性が高く、それぞれの IT マネージャの 3 分の 1 が過去 3 年間にアップグレードを行わなかったと述べています。大部分のマネージャは、予算的な制約に言及していますが、この調査において、オーストラリアの IT マネージャは品質より価格を重視する傾向が弱く、33 % が IT インフラストラクチャのコストを削減するためにトレードオフを行わなかったと述べています。一方、たとえばタイでは、トレードオフを行わなかったと回答した IT マネージャは 1 人もいませんでした。
図 4
プラス面としては、東南アジアの国や韓国に比べてまだ低い割合ではあるものの、アップグレードを行っていないオーストラリアのエグゼクティブの 71 % が、近い将来にアップグレードを行う予定であると述べています。
また、オーストラリア国内のブロードバンドと 5G ネットワークの計画にはまだ懸念があるものの、シスコの調査において、オーストラリアでは 5G が形になりつつあることが明らかになりました。IT マネージャの 36 % は、5G がデジタルの未来を形作る技術になると考えていますが、この割合は地域の平均(34 %)をわずかに上回っています。事実、モバイル接続速度に関するデータを収集・分析する Open Signal 社によると、オーストラリアでは大手の通信事業者による巨額投資を受けて、4G のダウンロード速度が急激に上昇しています。
インドの IT マネージャの約 20 % は 10 年以上前のインフラストラクチャを使用していると述べていますが、同じような状況にあるのはインドネシアだけです。中国、ベトナム、オーストラリア、タイ、マレーシアなどの IT マネージャでインフラストラクチャがこれほど古いと答えた人は誰もいません。過去 3 年間にインフラストラクチャをアップグレードしていないと回答したインドの IT マネージャのうち、70 % は新しい技術の流入に圧倒されていると付け加えていますが、この割合は、他の地域よりかなり高い結果となりました(たとえば、日本では 30 %)。多くの懸念を抱えているのは、従業員数が 1 万人を超える大規模組織のようです。従業員数が 1,000 人未満のインドの中小企業では、現在の IT インフラストラクチャで将来のデジタル化のニーズに対応できると思わないと回答した IT マネージャがわずか 2 % にとどまる一方、1 万人超の組織では、その割合が 4 分の 1 に達しました。
今回の調査によると、韓国の製造業者は予算を理由に主要な技術の導入で制約を受けています。韓国の製造業者は、地域の平均(40 %)を上回る 50 % 超がクラウド テクノロジーを導入していない理由として限られた予算を挙げています。これは、韓国の製造業界の IT マネージャが、自社の未来を形作る最も重要な技術として、ビッグデータの次にクラウド テクノロジー(74 %)を挙げた後に得た結果です。
公的機関を除く韓国の IT マネージャの 60 % は、5G に目を向けていますが、これは地域で最も高い割合です。近い結果が得られたのは 46 % の中国だけでした。今回の調査では、こうした技術を導入するうえでの要件と導入した場合の影響を明らかにはしませんでしたが、韓国の IT リーダーの大部分は、人材に最も懸念を抱いています。たとえば、 52 % の IT リーダーは、自社で人工知能を導入できない理由として、人材不足を挙げています。
シスコの調査によると、シンガポールでは、大規模組織によってスマート国家戦略の基礎となるビッグデータ分析の活用が進められています。シンガポールの IT エグゼクティブの多くは、組織を形作る最も重要な技術としてビッグデータを挙げているうえ、組織の規模によってその割合は増加しています。この技術を重要視しているという点でシンガポールは他国を引き離しています(図 5 を参照)。
図 5
シンガポールでビッグデータが重要視されている理由は、政府のイニシアチブと、地域のライドシェアやシンガポールに拠点を置く e-コマースの大企業の台頭という、主に 2 つの要因にあります。Competition Commission of Singapore6 の委託により KPMG 社が実施した調査 では、政府機関の取り組みが、データ共有の促進だけでなく、分析インフラストラクチャの実装とセットアップに関連する高額なコストの抑制に役立ったことがわかりました。またこの調査では、(今年合併された)Grab 社と Uber 社などの民間のライドシェア企業や Lazada 社などの純然たる e-コマース企業の成長も、分析能力を後押しする要因として挙げています。
政府のイニシアチブは他にもあり、国営の機関とシンク タンクが民間企業と連携して、新たな領域での分析の利用方法を研究しています。たとえば、富士通株式会社、Singapore Management University、および A*STAR の Institute of High Performance Computing は、人工知能とビッグデータ分析を活用することで、世界屈指の混雑した港湾における船舶航行の管理を改善できるよう Maritime and Port Authority of Singapore 社をサポートしています。
6『Understanding the Data and Analytics Landscape in Singapore』、2017 年 8 月
「ベトナムにおいてデジタル変革はもはや単なるビジョンではなく、現実です。ベトナム中のビジネスが技術を導入し、その力を活用して課題を乗り越え、新たな成長機会を解放しています。業務の効率化からモバイル ワーカーの支援とカスタマー エクスペリエンスの改善まで、技術は多くの面で企業の力となっています。
ビジネスは変革を進める過程で、デジタルの導入の可能性を最大限に活用するには、サイバーセキュリティをデジタル戦略の基盤に据える必要があることを理解し始めています。企業は自社の力となる技術の導入を始めていますが、ベトナムは今後人材を中心とする現地の能力を育て、すべての関係者が緊密に協力して知識を共有できるようにし、悪意のある攻撃者の一歩先をいけるようにする必要があります。」 – Thuy Le Luong
Thuy Le Luong - シスコ ベトナム マネージング ディレクタ
ベトナムもサイバーセキュリティに関する計画を策定しています。シスコの委託により、最近 A.T. Kearney 社が実施した ASEAN 地域のサイバーセキュリティに関する調査では、マレーシア、インドネシア、およびベトナムが、すでに世界平均の 3.5 倍の脅威を阻止していることが明らかになりました。この地域でシスコが実施した別のサイバーセキュリティ調査7 では、ベトナムで発生したサイバーセキュリティ インシデントのうち、3 分の 1 の被害額が 1,000 万ドルを超えていることがわかりました。この割合を他と比較すると、地域では 4 %、全世界では 3 % となっており、次に被害の大きいオーストラリア(10 %)を大きく引き離す結果となっています。8
とはいえ、ベトナムは停滞しているわけではありません。1 月に、ベトナムは政府によるインターネットや軍事 IT に関連する問題の管理を監視するためのサイバーセキュリティ作戦軍を立ち上げ、6 月には、国会で 2019 年 1 月 1 日に発効するサイバーセキュリティを強化することを目的とした法律が可決されました。9 シスコの調査では、IT リーダーもこの問題を重要視していることが示されています。81 % がサイバーセキュリティ対策を強化するために IT インフラストラクチャをアップグレードしていると述べていますが、これはベトナムのマネージャが挙げた他の技術と地域のサイバーセキュリティのどちらと比較しても最も高い割合となっています。ベトナムの金融サービスのエグゼクティブと公的機関のマネージャは、サイバーセキュリティをさらに重要視しており、サイバーセキュリティが重要であると回答した調査対象者の割合は、政府機関で 100 %、金融サービスで 94 % という結果になりました。このメッセージがすでに導入の判断に反映されていることは明らかで、88 % がすでにサイバーセキュリティの導入を開始していると回答していますが、これは導入されている技術の中だけでなく、すべての国で導入されているすべての技術の中でも最も高い割合となっています(図 6 を参照)。
図 6
それと同時に、シスコの調査ではベトナムの IT マネージャが最も強い自信を持っていることが明らかになっています。組織でデジタル変革戦略を策定しているかどうかを尋ねたところ、策定していると答えた IT マネージャの割合が最も高いのはベトナムでした(99 %)。また、そのデジタル変革戦略が目標を達成するうえで十分なものであると考えているとすべてのマネージャが述べたのも、ベトナムだけでした(その戦略がデジタル変革に必要な技術を導入するのに十分なものであるかどうかを尋ねたときにも、ベトナムだけが同じ結果でした)。それだけでなく、自社の未来を形作っている、または形作るであろう技術の中でクラウド、サイバーセキュリティ、および自動化を挙げた IT エグゼクティブは、調査対象の他の国よりベトナムの方が多く、これは、ベトナムのマネージャが現在の自国の発展段階で重要となる技術に大きな重点を置いていることを示しています。この調査のデータをさらに深く掘り下げると、規模を問わず、すべてのセクターと組織が同じように考えていることがわかりました。
7 『シスコ 2018 アジア太平洋地域セキュリティ機能ベンチマーク調査』、2018 年 9 月 8 『シスコ 2018 アジア太平洋地域セキュリティ機能ベンチマーク調査』、2018 年 9 月 9 Vietnam: Withdraw Problematic Cyber Security Law、Human Rights Watch、2018 年 6 月 7 日
インドネシアの小売業者は、技術を中心とした業界のシフトに十分な速さで対応できていないように思われます。GO-JEK が急成長を遂げてさまざまな領域に進出し、フード デリバリ、決済、銀行、食料品店、スタイリスト、さらにはマッサージをも含む、ユビキタスなモールで利用されるようになったにもかかわらず、インドネシアの小売業者は、今もなおこのようなプラットフォームの巨人に挑むのに必要な技術の導入で後れを取っています。インドネシアの小売業界の IT マネージャのうち、必要な技術を導入するための自社の準備が十分に整っていないと回答したのは 9 % でした(その他の大部分のセクターでは、準備が整っていないと回答した IT マネージャはいませんでした)が、自社の戦略が目標を達成するうえで十分なものであるかどうかを尋ねたときには、その割合が 14 % まで上昇しました。自社の未来を形作る最も重要な技術としてクラウドを挙げた小売業者は圧倒的に多く(86 %)、これは、小売業者の中で、IT マネージャが求めているほどデジタル戦略の基礎となるクラウドの導入が進んでいないことを示しています。
タイの公務員は、組織でビッグデータと分析を活用することに大きな将来性があると見ており、それが組織の未来を形作っている、または形作るであろうと回答した公的機関の回答者は、サイバーセキュリティよりさらに多い 79 % に達しました。これは、アジアの新興国の政府機関が、収集している、または収集できる国民のデータを分析すれば、公共サービスの効率を高められる可能性があると考えていることを示しています。タイのプラユット・チャンオチャ首相は 3 月に、2017 ~ 2021 年までのデジタル政府計画を発表しました。この中では、農業、観光、教育、医療、投資、防災、行政を含むすべてのセクターで情報ネットワークを統合し、デジタル対応を進めることを目指しています。
マレーシアの公務員は、組織がビッグデータと分析(BDA)の導入を開始していると述べる傾向が他の国の公務員よりかなり強く、調査を行ったすべての国の割合が 52 % だったのに対し、79 % という結果になりました。とはいえ、一部の公的機関の IT マネージャは、今もなお現在の IT 環境の構造が十分ではないという懸念を持っており、それについて十分ではない、わからないと回答した割合は、それぞれ 17 % と 14 % でした。一方、自分が属する部門がデジタル変革戦略を策定していると回答した IT マネージャのうち、必要な技術を導入できるだけの準備が整っていないと答えた割合は 22 % でした。
このように分析の導入率が高い一方で対応が十分ではないという懸念が持たれている理由は、マレーシアが積極的にビッグデータを取り入れているという事実にあるのかもしれません。マレーシア政府は数年前、自国を ASEAN 屈指のビッグデータ分析のハブにすることを目指して、独自のビッグデータ ロードマップを発表しました。2015 年に Frost & Sullivan 社が発表したホワイト ペーパー10 は、イニシアチブのギャップを明らかにしたうえで、「R&D とインフラストラクチャのイニシアチブにより重点を置いたアプローチを導入すること」をマレーシアに提言し、「同国が BDA の潜在的経済効果を得るには、多大な努力が必要である」と締めくくっています。
10『National Big Data Analytics Initiative: Assessing the Opportunity and Impact of Big Data Analytics in Malaysia』、F&S 社、2015 年
フィリピンにおける公務員の 20 % 超は、政府機関がデジタル変革戦略を策定していないと述べていますが、この割合は平均を上回っています。また、調査対象者の 58 % がクラウド サービスの導入を開始していると述べる一方、サイバーセキュリティの導入を開始していると回答した公的機関の IT マネージャは、わずか 4 分の 1(26 %)でした(フィリピンの金融サービス業界では 82 %、調査を実施したすべての国の公的機関では 62 % でした)。フィリピン政府は、昨年選挙委員会のデータベースがハッキングされた後、1 月にサイバーセキュリティ機能のアップグレードに約 4,000 万ドルを投資すると述べましたが、2016 年だけで他にも 68 の政府機関がハッカーの標的になりました。